《MUMEI》 一か八か!夜月は、天井から下がっている足枷を触った。 「美里。何でこの位置に足枷があるかわかるか?」 また質問だ。 「わからないわ」 「これで両足を吊されたらお尻が丸見えだよ」 「そういう悪趣味なことはやめなさいよ」 「女の子にとって、お尻はあそこを見られるより恥ずかしいってホント?」 卑猥な質問攻めに美里の神経は尖りっ放しだ。 いきなり足の裏をくすぐられた。美里は一瞬もがいたが、怒鳴った。 「考えてんだろうよ!」 「え?」 「考えてるだけでしょ。やめなさいよ、そういうことすんの!」 真っ赤な顔で怒る美里に、夜月は笑いながら脇をくすぐりまくる。 「あっ…くううう」 「生意気なんだよ美里は!」 面白がって長くくすぐる。美里は悶えた。息ができない。何とか声を振り絞る。 「わかった……わかった……」 やめてくれた。 「はあ、はあ、はあ…」 汗びっしょりで横を向き、両目を閉じる美里を、夜月は上から見下ろした。 「美里。自分の置かれてる状況を忘れたらねえ、いじめるよ」 (今は逆らえない) 「…わかったわ」 「わかったなら質問に答えな」 答えないと何をされるかわからない。 「お尻のほうが恥ずかしい」 「よし。じゃあ両足吊してあげる」 悔しい。やられ放題だ。でも哀願はしたくない。美里は唇を噛んだ。 夜月がまたハサミを手にする。美里は緊張した。 「両足外すけど、蹴ったら許さないよ」 「両手縛られてるのに、蹴れるわけないでしょ」 「美里は空手かなんかやってるのか?」 「あたしはやってない」 「嘘つけ!」夜月は笑った。「ドアを一発で壊したくせに」 「最初から外れかけてたんでしょ」 夜月は、ハサミを美里の膝の近くに置いた。 「刑事ってみんな武道をやってるんだろ?」 「刑事ドラマの見過ぎよ。あたしはやってない」 「そうか。頭で勝負か?」 夜月はいよいよ美里の右足を外した。 「ちょっと、悪趣味はやめなさいよ」 「やめないよ」 吊される。惨めだ。美里は顔を歪めた。ところが、夜月は片方ずつではなく、左足も外した。 「!」 美里の目が光る。夜月実、最大のミスか。しかし、美里は一瞬ためらった。 (でも、しくじったら殺されるかもしれない) リスクは大きい。だが、この瞬間を置いてほかにチャンスはない。 一か八かだ! 夜月が美里の右足を掴むと、足枷にはめようと持ち上げた。そのとき…。 「ぐっ…」 美里は両脚で夜月の首を挟んだ。 「なっ…」 ハサミがベッドの下に落ちた。美里は渾身の力を込めて両脚で首絞め! 「こう、こう……」 夜月は真っ青だ。手で美里の脚をほどこうとするが、脚の力のほうが強い。 しかも普通の女子ではない。空手の黒帯で柔術など実戦格闘技の訓練も受けている。 「しむ、ゆるして…」 夜月は死にそうな顔で声を振り絞った。しかし美里は外さない。ここで外したら殺されてしまう。 夜月は限界なのか、苦しそうに舌を出しながら、美里の脚をパンパン叩いた。タップアウトのつもりらしい。 美里は心を鬼にして力を入れた。 許してもらえないと悟ったか。夜月は床に手を伸ばしてハサミを拾おうとする。 (まずい!) 夜月はハサミを掴んだ。美里の脚めがけて振り上げる。美里は技を解くと同時に顔面キック! 「だあ!」 夜月は倒れた。激しく咳き込むが意識はある。 (しくじったか?) 美里は慌てた。夜月は首を押さえながら枕もとに回る。 「テメー、よくもやってくれたな?」 夜月は再びハサミで美里の胸を狙う。しかし美里は両脚を上げて思いっきり夜月の胸にキック! 「がっ!」 壁に背中から激突。返って来る反動を利して夜月の両脇に両脚を入れる。 「あああ!」 粘る夜月を構わず持ち上げて、ベッドに脳天から落とした。 「ぐっ…」 ベッドから転落。動かない。首の骨が折れたかもしれない。 美里は両手をほどこうと暴れた。 前へ |次へ |
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