《MUMEI》

「俺は車で待ってるから。」

国雄は後部座席に椅子を倒す。
病院の上がったところに父は居る、エレベーターの時間が長くて、怖くなった。
母さんから見舞いの品を預かってある。


「いらっしゃい、光君。」

なっちゃんのお母さんはふくよかで女性的な柔らかいイメージだったが以前に比べると看病疲れなのかほっそりしているようだ。
個室のベッドの上に、小さな父さんが居た。

痩せ細り、目は落ち窪み、体中に管を繋げられ、薬で髪は抜け落ちている。


「……久しぶり。珈琲ご馳走になって以来だね。」

良かった、俺の声はまだ出るようだ。


「……何故来た」

父さんの口はゆっくり動いてから少し遅れて声を出す。
見るのが痛々しい。
問い掛けるその瞳で射抜かれそうだ。


「父親の具合が悪いと見に行くのは普通でしょ?」

その当たり前は俺達には不自然だが。


「笑いに来たか?」

卑屈になっている。


「違うよ。母さんからのお土産もある、一目でいいから会いたいって思ったんだよ。」

俺はいつも会いたかったんだ。


「醜い姿をか?」


「好きな人が病気になったら俺はその人に俺の時間を充てる、笑うなんてしないよ。父さんはそれとはちょっと違うけど、奥さんの気持ちが分かるから父さんの今の愛されて、闘ってる姿は誇りに思う。」

でも、俺は口にすることで言い聞かせているふしもある。
嘘つきな自分に幻滅してしまった。

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