《MUMEI》
11.
11.

丈 は真理の居る家に帰りたくなかった。
今は真理と顔を合わせたくなかった。
真理の浮気?
会社からの解雇…
これからの人生に絶望していた。

今朝の天気予報では「暫く良い天気が続くでしょう」と言っていたが、今の空は 丈 の気持ちのように鈍より曇って今にも雨が降り出しそうだった。

丈 は会社から引き上げた荷物は傘だけ残して全て公園のゴミ箱に捨てた。
それから、あてもなく歩き出した。


その頃、大賀根 望代は仲居に変装し阿歩屋旅館に隠しカメラを設置させていた。

馬鹿温泉の阿歩屋旅館といえば300年の歴史を持つ老舗旅館だ。
東京ドーム7コは入る広さというから温泉テーマパークと呼んでも過言ではない。
数々の内湯に露天風呂、打たせ湯。
館内の湯舟に全て入るのは一日では無理だろう。館内で1番の人気は滝のある露天風呂だ。
高さ50メートルの滝が敷地内にある。
魔怒化(マヌケ)の滝と呼ばれ「魔物の怒りが気化した」と言われていて熱いお湯が勢いよく落ちている。
魔怒化の滝は源泉98度で邪気や悪運を取り除くとして有名だ。
もちろん滝自体は熱くて近付けない。
少しでも滝から流れ落ちる、お湯に近付きたい所だが勢いと湯気と熱さで近付けない。
滝は敷地内を流れる川に注いでおり上流は熱く下流になるほど、ぬるめのお湯になっており、それぞれが好きな場所を探して自分に合ったお湯に浸かる事ができる。
馬鹿温泉地区には他にも温泉宿は幾つかあるのだが、この阿歩屋旅館の規模に勝てる宿はない。
それどころか、もしかすると日本中で阿歩屋旅館が1番広大な温泉宿かもしれない。


真理「もぉー嫌。急に雨が降ってきた。良い天気だ、って言ってたのに!」

真理は重たい旅行鞄を抱えながら急いで傘を取りに部屋へ戻った。
徹との待ち合わせ場所に向かっている途中で急に大粒の雨が降り出したのだ。
傘をさし再びバス停へ向かうと徹が先に待ち合わせ場所のバス停に着いていた。
徹は車から降りトランクを開け真理の旅行鞄をトランクへ入れようとした、が車のトランクが小さいのか、真理の旅行鞄が大きいのか、なかなか入らない。

徹「なんで、こんなデカイ鞄にしたんだ!」

そう言いならが乱暴に鞄をトランクへ押し込んだ。

真理「ちょっと〜、そんなに乱暴に扱わないでよ。」

真理は不機嫌な口調で言った。

徹「なに言ってんだ。早くしなきゃ二人共ずぶ濡れになるだろ。」

徹は怒った口調で答えたが既に二人共ずぶ濡れだった。


丈 は光駅まで戻って来た。
いつもなら夕方には閉まっている小さな宝くじ売り場が今日は開いていた。
その小さな宝くじ売り場の明かりが、やけに今日は輝いて見えた。
周りが暗いからなのかもしれないが 丈 は気になって宝くじ売り場に向かった。

宝くじ売り場の おばあさん「なんだい、買うのかい?今、閉めようと思ってたんだけど。」

丈「そうですよね。いつもなら閉まってるから。」

宝くじ売り場の おばあさん「買うなら早くしておくれ。」

丈「か、買います。えっと…」

宝くじ売り場の おばあさん「なんだい、なんだい。決まってないのかい?じゃ〜これにしな。」

おばあさんは勝手に決めて 丈 に渡した。

丈「あっ、はい、どうも」

丈 は慌てて、お金を払った。
おばあさんから宝くじを受け取り財布にしまっていると一人の女性が目に入ってきた。
その女性は空をジっと見つめ立っていた。
突然の雨で傘がないので帰れず雨が止むのを待っているように見えた。
しばらくすると女性は大粒の雨の中を歩き始めた。
丈 は女性に駆け寄り腕を掴んだ。
女性はビックリして 丈 を見た。
丈 は自分が持っていた傘を何も言わずに女性に渡すと、その場を走り去った。
女性は暫く目で追っていたが、手に持たされた傘に気がつき状況が、やっと把握できた。
女性は嬉しそうに傘を広げて、ゆっくり歩き出した。



つづく

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