《MUMEI》
儀式
「そんな…私‥」

「なぁ!頼むよ!!」

男は戸惑う加奈子に更に悲願する。

「俺、あんな死に方したくないんだよ!」

「あんなって‥?」


心あたりがまるでかなった。
加奈子がこの場所に連れて来られてから一度も死人など出ていないのだ。


「あんた知らないのか!?コイツが‥この化け物が…」

「はいはい、お喋りはそこまで。」


知られてはまずい事なのだろうか…
男が先を言う前に、有馬はそれを中断してしまった。
「もう考える余地はなくなりましたよ、加奈子さん。」

「どういう意味?」

「ご覧なさい、リョウ君の発作が引き始めました。」


見れば確かに有馬の言う通り、さっきまでのたうち回っていた筈のリョウが、今では呼吸も整い、ゆっくり立ち上がっているところだった。

「よかった‥」


もう大丈夫なのかとリョウの名前を呼んだ加奈子の声は、男の凄まじい叫び声で掻き消された。

「何っ!?どうしたの!」
今まで以上に怯えだす男。それにリョウの様子も何だかおかしい。

一歩一歩とゆっくり男との距離を縮めていくリョウ。


気のせいだろうか、心なしか目が光っている様な…


「ねぇ、一体何なの!?何でこの人こんなに怯えているの!?」

男のパニックが伝染し、加奈子までもが恐怖に駆られていく。

「静かにしなさい。今から儀式が始まる…」

「ぎし…き?」

「そう。見てればわかりますよ。美雪君、準備はいいですか?」

「はい、ドクター。」


美雪の手にはビデオカメラが握られている。

「いよいよですね。」

「あぁ…今日という日をどれだけ待ち焦がれていた事か…。」


薄暗く冷たい部屋の中、響くものは二つ。


リョウの擦り寄る様な足音。



それに恐怖する男の泣き叫ぶ声…




目を輝かせて見入る有馬と修二、それに美雪。

加奈子も彼らを横目に檻の中を見る。

何が起こるのか不安な面持ちで見る。




凄まじい叫び声と一緒にそれは始まった。

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