《MUMEI》 水、食べる星の一族は不死で在り、アルタイルの光の一人息子、アララビもその一人だ。 アララビの悪癖は六百七日目の満月に始まる。 悪癖はアララビの婚約者、オリデのポストにも投函されていた。 星の一族は乾いた土壌で生きてる為に水を摂取しない生き物であるが人に近しい姿をしている、そんな彼等が水分を摂取することは六百七日の雨が湧く日だけだ。 六百七日の間に空気中からかき集められた水分を土壌が噴出させる。 井戸が湧くような、噴水にも似た光景で星の一族は雨は降るのではなく、湧くという認識なのである。 その雨の湧く日にアララビはオートクチュールの光繭で紡いだ正装に身を包んでいる。 長い乳白色の髪を編み上げ、花嫁を待つのだ。 雨の湧く土壌では、人々がその貴重な水分を片手で掬い上げ、水の甘みに顔を綻ばせた。 一方で、小高い山の森の中では厳かに式が始まっていた。 過去に大きな地震によって出来たと伝わる窪地に湧いた雨は湖と為り、限られた者しか入ることが許されない神聖な湖と為る。 湖面には美しい花嫁が映り出されアララビは嬉しそうに花嫁の移る湖に飛び込んだ。 この場合、身投げとも言える。 オートクチュールの光繭は水を含むと発色が変化して見るものを眩惑させた。 自分もその一人ではないかと思ってしまった。 オリデは六百七日目のこの日に必ずアララビの挙式ごっこに付き合い、泳げない彼を助ける。 そして自分はその一人でもある。 六百七日には必ず、紅を塗って花嫁の姿をしたアララビを担ぎ、人目につかない地下牢へと仕舞う。 彼の父の命令だ。 オリデは言う、 「誰よりも星を愛しているのは彼、誰よりもアララビを愛しているのは私。」 彼女は自己愛のアララビには一生愛されないだろう、式の招待状には彼女の名前は記されない。 背中に担ぐアララビは日に日に面影が亡き彼の母、人の血を得ていたゲートルダに似てきた。 オリデが言うように誰よりもゲートルダを愛しているのは自分だと思う、だからアララビの母を死に追いやった夫も許容しよう。 一妻多夫のこの世界でオリデの第二夫である自分だが、彼女は誰よりアララビを愛し、自分は誰よりも亡きゲートルダを愛し、アララビに尽くすのだ。 アルタイルの星に栄えあれ。 前へ |次へ |
作品目次へ 感想掲示板へ 携帯小説検索(ランキング)へ 栞の一覧へ この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです! 新規作家登録する 無銘文庫 |