《MUMEI》

 
『アヅサ待って』

『ほら、こっちだよ
アラタ、楽園が待ってる』
アラタの手をアヅサは引いている。

葉の緑がフィルムを巻いたように次々転換してゆく。染み込んでいく感覚だ。指先や体の端々が染まっていないか調べてみた。
そんなこともあった。

これは夢で、子供の頃の記憶だとアラタは繰り返す。
いつものことだ。
昔々の現実。


口が勝手に動き出す。
    『嘘』

嘘だ。嘘嘘嘘。


『本当だよ天使に会った』そんなこと言って、また尚衛のところなんだ。
でも、尚衛ならいい。

アラタは黙って追いかける。尚衛は彼にとって特別だからだ。


『俺とどっちを愛してる?』

『わからない』
そう言い逃れてきた。

夢の中のアヅサの背中が全てを見抜いているようだ。

謝罪の言葉が唇の上で膨らんでは消えた。



アヅサへの贖罪は終わらない。

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