《MUMEI》

唖然とするバーグ。教師として人生の先輩として、彼ら若人を導けるだけの力量と経験を持っているつもりだった。いや持っている。だからこそ分かる。

彼が、自分でも本気で戦わねば勝てるかどうか危うい程の実力だと。

(冗談じゃないぞオイ。魔法による補助無しであの身のこなしだと? 生身でソードマスタークラスかよ!)

天才、と言いかけて飲み込んだ。天才じゃない。彼が天才である筈がない。彼は努力の人だ。恵まれた物は何も無いけれど、無い物は努力して手に入れる。そういう男だ。しかし――

(あの歳であの実力……一体、どれだけの訓練をしたってんだ。間違い無く地獄を見てるな、それに何度も)

こんな少年にそんな努力を強いる環境とはどういうものなのか、教育者として見逃すことは出来ない。

などと他人事のように言えるのは、きっと近くに"落ちこぼれ"がいなかったから。いたならその他大勢と同様に蔑んだだろう。

ならばどうする。教え導く者として、彼に何をしてやれる。

ならばこうしよう。彼がこの学園にいる間くらい、普通に過ごせるようにする。

普通に通って、普通に友達を作って、普通に勉強しをて、普通に遊んで、普通に恋愛をして、普通に卒業をする。

容易ではない。彼だけでなく周りも変えなければならない。だがそんな苦労も彼に比べれば何てことない。

(俺は彼の心に触れた)

本音を聞いた。とんでもない暴力の中、自分を鍛え上げながら生きてくるのは、当然苦しかったのだ。

直接救うのは自分ではない。きっとそれは青髪の少女がやってくれる。だから自分は間接的に関わろう。

「それが俺の、大人としてのやり方だ」

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