《MUMEI》
瑠璃花
瑠璃花は心臓が止まりそうなほど、ハラハラドキドキしていた。完全に酔いが覚めた。
バスタオル一枚。しかも裸足。見つかれば言い訳のしようがない。
それよりもワゴン車から男が五人くらい降りてきて、すぐそこでジュースを買っている。瑠璃花は怖くてたまらなかった。
足がすくみ、膝が震えた。下半身がキュンと締めつけられるような緊張感。彼女は思わず下腹部を押さえた。
「俺の欲しいジュースがねえな。ここ自動販売機ってこれだけ?」男が角を曲がって覗く。
(ヤダ!)
男は瑠璃花を見て一瞬ギョッとしたが、お化けではなく女の子とわかると、笑った。
「おいおいおい!」
「何だよ?」
瑠璃花は顔面蒼白だ。
(まずい。どうしよう、どうしよう?)
ほかの男たちも来た。
「どうした?」
「えええ!」
瑠璃花はたちまち男五人に囲まれてしまった。若い、不良っぽい連中だ。
「お姉さん、何やってんの?」
「違うんです!」
「かわいい」
「この下は裸?」一人がバスタオルを掴む。
「やめてください!」
「答えな。答えないとバスタオル取っちゃうよ」
「大きい声出しますよ」瑠璃花は震えながらも男たちを睨んだ。
「いいよ。悲鳴上げたって、パトカーが来る前に車でさらうほうが早いぞ」
「それより変なことはしないから俺たちと遊ばね?」
瑠璃花は困り果てた。
「あ、待ってください。服だけ着させてください。付き合いますから」
「逃げる気だろ?」
「逃げません」
「じゃあ、待ってるから服着て来な」
瑠璃花は車のほうへ歩いた。男たちはワゴン車の後ろのドアを開けると、瑠璃花を押し込んだ。
「さらえ!」
「やめて!」
抵抗したが五人がかりでは勝ち目はない。あっという間に後部に寝かされてしまった。
運転席にまだ一人いた。バスタオル一枚のまま車で連れて行かれたら助からない。犯されてしまう。
瑠璃花は必死に暴れた。口を押さえようとする男の手に噛みつき、脚を掴む男の胸を蹴った。
「テメー」
「あう!」
おなかをぶたれた。意識が飛びそうになる。気を失ったら終わりだから歯を食いしばって耐えた。
手足を押さえつけられた。もう一度おなかめがけて拳が振り上げられる。
「言うこと聞くからやめて!」
拳は止まった。
「本当か?」
「だから乱暴はやめて」
「かわいい」
「わかったよ」
「おい、車出せ」
車が走り出す。万事休すか。瑠璃花は唇を噛む。泣くのを堪えた。
タイヤを鳴らして急停止。皆ガクンと倒れそうになった。
運転席の男はウインドーを開けると怒鳴った。
「危ねえな!」
美里は素早く手を入れてキーを掴むとエンジンを切る。
「何すんだテメー!」
「動くな。警察だ!」
警察手帳を見せられ、男は焦った。瑠璃花は神妙にしている。
「その子を下ろしなさい」
「違うんだよ。最初から裸だったんだよ」
「下ろしなさい」
「俺たちが脱がしたんじゃねえぞ」
美里は男を睨むと、言った。
「その子を下ろしたら、行っていい」
「おい、下ろせ」
瑠璃花は下ろされた。車は走り去った。
美里は、優しく瑠璃花の背中に触れた。
「大丈夫?」
「はい」瑠璃花はおなかを押さえている。
「おなかぶたれたの?」
「大丈夫です」
「部屋戻ろう」
瑠璃花は、連行されゆく犯人のような気持ちになった。これから取り調べを受ける。殴られるかもしれない。
「瑠璃花。怪我はしてない?」
「はい」
美里の優しさは嵐の前の静けさか。瑠璃花はムッとして俯きながら歩いた。

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