《MUMEI》

「知り合いのツテで信用出来る弁護士さんがいるんだ。安西、薬……使った?」

天使様には似つかわしくない言葉だ。


「昔ね、葉っぱをちょっと。でもそんなにのめり込みたくなくて、その一回きり。あとはタバコばっかりでした。」

今も口寂しくて堪らない。


「うん、安西はちゃんと正直に話せばいいんだからね?」

責めもせず、罵りもせず、軽蔑もしない。
俺を疑いもしないのか。


「あゆまは……?」


「あの子の母親が重度の麻薬中毒が発覚して、施設に居たんだけど……精神的に崩れちゃって、今は安西の弟が引き取りたいって申し出ている。」

聞いて、愕然とした。
弟達とは大学を卒業させてから連絡を絶った。

何よりも、あゆまを引き取るとはどういうことなのだろうか。


「……安西があゆま君のこと気掛かりなのはわかったし、それと同じくらいにあの子には安西が必要なんじゃないかな。安西のことを話すときだけ、あゆま君は表情豊かなんだ。」

俺なんか、忘れてくれればいいのに。生死の境をさ迷いながらあゆまの名前を呟いたのかもしれない。
呪いみたいにあいつの頭に残らなければいいのだが。

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