《MUMEI》

美里と瑠璃花は部屋に入った。神妙にしている瑠璃花に、美里は優しく言った。
「何か、着ていいよ」
「はい」
瑠璃花はバスタオルを取り、赤いパジャマを着ると、美里の前に正座した。
「いつから?」
瑠璃花は俯いたまま黙っていた。
「正直に言ってごらん。怒らないから」
しかし瑠璃花はムッとした顔を、ただ下に向けている。美里は瑠璃花の膝を優しく触った。
「あたしは瑠璃花の味方だよ。絶対に怒らないって約束するから、話してごらん」
瑠璃花は先輩の優しさに観念して、口を開いた。
「高1のとき…」
「うん」
「友達と三人でホテルに泊まって、ゲームに負けた子が、罰ゲームで、バスタオル一枚のまま廊下に出されたの」
「危ない罰ゲームね」美里は笑った。
「そんときあたしも負けて、友達が意地悪して鍵締めてドア開けてくれなくて。あたしは焦りまくって。そのとき、凄く興奮したの」
「興奮?」
「ドキドキして、感じちゃって。あたしおかしいのかと思って」
瑠璃花は、美里が否定しないで真剣に聞くから、どんどん話した。
「今度は一人で小さな旅館に泊まったんです。深夜、下に何も身につけないで浴衣着て、大人の男たちがいるロビーに行ったら、ドキドキできると思って」
瑠璃花は顔を紅潮させ、照れながらも笑顔で話した。
「そしたらだれもいなくて。あたし、浴衣脱いで、全裸でロビーのソファに寝て。浴衣から離れれば離れるほど死ぬほど怖くてドキドキして」
美里は驚きを隠し、口を挟まずに真顔で聞いた。
「それから、高校卒業して一人暮らし始めてからは、ピザ宅配を呼んでバスタオル一枚で出たり。最初はドキドキするけど慣れると全然平気になっちゃって。段々エスカレートして、危険を求めて外に…」
「……」
「ホントはマッパで出たいんですけど、裸はやっぱりまずいから。あたし、変なんです」
美里は、瑠璃花を抱きしめた。
「あっ…」
「ありがとう。正直に話してくれて」
「先輩」
「あなたは、変じゃないよ」
しっとりとした声で囁かれて、瑠璃花は安心感を覚えた。
「何も変じゃない」
「先輩。興奮してるときは思考回路おかしくて。でも正気を取り戻すと、自分のしたことに震えが来ました。何て危ないことをしたのかと」
美里は一旦瑠璃花を放すと、彼女の両腕を握ったまま、目を見つめた。
「わかったわ。じゃあ、スリルを味わいたくなったら、あたしを呼びなさい。温泉に一緒に泊まりに行こう」
「え?」
「瑠璃花を素っ裸にして男湯に放り込んであげる」
瑠璃花は両手で胸を押さえた。
「犯されたらどうするんですかあ?」
「じゃあ、廊下に転がしてあげる」
「まさか裸のまま手足縛って?」
「当たり前じゃん」
「そんなハードなのは困ります。もっとソフトなのがいい」
「甘いよ」
瑠璃花は急にかしこまった。
「話して良かった。怒鳴られて、今すぐやめなさいって言われるかと思った」
「やめろって言われてやめるくらいなら、とっくにやめてるでしょう」
瑠璃花は唇を噛んだ。
「屋上で、気づいてましたか?」
「由美子さんが自演と言ったときから、あれっと思った」
「うわあ。刑事課は侮れないですね」
美里は、笑顔で言った。
「あなたをドキドキさせてくれる彼氏ができたら、自然にやめられるかもよ」
「徳中さんとか」瑠璃花は笑った。
「タイプなの?」美里の顔が赤い。
「先輩が狙ってないなら」
「よく言うよ。あたしにも選ぶ権利があるよ」
「じゃあ、アタックしていいですか?」
瑠璃花は真顔で聞いた。美里の表情が強張ると、瑠璃花は美里の顔を覗き込んだ。
「あっ、先輩本当は好きなんでしょう!」
「まさか…」
「好きなんでしょう、好きなんでしょう!」
「調子に乗るな!」
ヘッドロック!
「痛い痛い痛い。降参、降参!」
「女が簡単に降参するな!」



END

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