《MUMEI》

  
眩しいけど…起きなきゃ…。

どうしても起きなきゃいけない、そんな気がして目を開けた…。

目線の先にあったキッチンには、エプロンをした克哉さんが立っていた。

「…ぁ…克哉さん」
「おはよう、アキラ」

いい香りがするけど、朝食かな…昼?

時間が分からなくて時計を探していたら、自分が洋服を着ていた事に気が付いた。

「…僕…あの…」

どういう事だかイマイチ理解出来なくて、ぼやけた頭で色々思い出そうとしていた。

夢を見ていたような……。

それはとても気持ちいい夢だった事だけは覚えていた。

「克哉さん…僕……夢…見てました」
「いい夢だったか?」
「はい…とても……」

その夢の中で僕は泣いてしまったのだろう…。

目が覚めた今は、とても爽快な気分になっていた。

それにしても何で泣いたんだろう、何か…とても嬉しい事があって……。

「…貴方にプロポーズ…されたんだ…あの…夢の中…」
「キミの手を見てごらん…右じゃなくて…そう…」

寝ぼけながら克哉さんに言われて、手を目の前で広げながら見てみると右…じゃなくて左に。


朝…。


ベランダで育てている植物に水をあげていると、いつも彼らが見せてくれる朝露のようなものが、左手の薬指にキラキラと輝いていた。


「……ぁ」
「プロポーズして失神されるとは思わなかったよ」
「…ごめんなさい///」


左手に光るものの重さと感触に緊張して、一気に目が覚めた。


「休んでいていいぞ、もうすぐ夕飯も出来るから」
「あっ…あ…はい///」

二人でデートだと言って浅草に連れて行かれたまでは良かったんだけど。


夢みたいな場所でプロポーズされて。


普段見る事も無いような婚約指輪をプレゼントされて。


僕が混乱して半分失神したような中で、結婚するんだよと言われて…。


一気に夢のような出来事に遭遇したせいで、そんな幸福慣れしていない僕は気を失って倒れてしまったんだった。
  

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