《MUMEI》

その家では彼の両親がわざわざ待っていてくれた。

美味しい和菓子とお茶を飲みながら、彼のことを説明された。

彼はオレより2つ年上で、本来なら高校一年生。

一応高校は入ったらしいけど、中学の時からヒキコモリで全く通っていない。

それどころか部屋からも滅多にでなくて、彼のご両親はとても心配していた。

彼はとても神経質らしく、思春期に入るとそれが爆発した。

全てのものを怖がるようになり、全てのものを拒絶するようになった。

でも唯一救いなのは、自分自身を拒絶しないこと。

しかしこのままでは時間の問題だと主治医から言われ、オレに助けを求めに来たのだと、言った。

オレは笑顔で頷き、大丈夫だと言った。

コレでも話術には少し自信があったから。

でも…。

彼の部屋のふすまを開けて、彼を見た途端―心臓が高鳴った。

今まで感じたことがないほど、強く。

部屋の隅で足を組み、おびえた顔でオレを見た彼を、一目で好きになってしまった。

そう…恋に落ちてしまった。

引きこもり特有の青白い肌に、華奢な手足。

でもキレイな顔と眼をしていた。

少し伸びた黒い髪も、絹糸のように美しかった。

心臓がわしづかみにされる感覚。

呼吸が乱れて、顔に血が上った。

少しよろけながらも、彼の前へ行き、オレは精一杯笑顔を浮かべた。

「…はじめまして」

「……はじめ、まし、て…」

美しくも低い声に、オレは目眩を覚えた。

前へ |次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫