《MUMEI》

その後、オレは休日だけではなく、学校が終わるとすぐに彼の元へ行った。

彼はいつも白い浴衣を着て、毛布をかぶっていた。

部屋はカーテンが引かれていて、電気も付けずに、薄暗かった。

でもそれで良かった。

彼の部屋で、彼の存在しか感じられないあの空間が、ひどく心地良く感じたから。

彼はあまり話さなかった。

最初はそれこそ、オレが1人でしゃべってばかりいた。

でも通っているうちに、単語程度なら返事もしてくれる。

そして表情も少しずつ、見せてくれるようになった。

オレはそれが純粋に嬉しかった。

彼がオレに心を開いてくれることが、彼を1人占めできることが、ただただ嬉しかった。

やがて彼は、外へ興味を持ち出した。

オレは少し不安になった。

でも彼の気持ちを否定したくない。

彼の希望で、陽が暮れてから、家の近くを散歩するようになった。

最初は散歩だけだったけど、公園で座り、話をするようになった。

でも…不安はどんどんふくらんだ。

それが的中するように、やがて彼は昼間も歩き出したいと言い出した。

休日の公園、やがては人の多い街にまで…。

そのことを彼の両親はスゴク喜んで、オレに多くのおこづかいをくれた。

だけど…全然嬉しくなかった。

彼がオレ以外のものを、気にしだしていることを、気付いてしまったから…。

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