《MUMEI》 そうして彼と出会って、二つの季節が過ぎた頃、彼は…高校に通い出した。 学校にはおだやかで優しい人が多くて、楽しいと彼は言っていた。 オレは顔では喜んでいたけれど、胸は真っ黒に染まっていた。 …もう、彼にはオレが必要じゃないのかもしれない。 彼が着る服も、オレが知らないうちに買われた、新しいものになっていった。 やがては放課後や休日に会うことも、減っていった。 そしたら…彼のご両親から、やんわりともう役目は終わったのだと、言い渡された。 目の前が真っ暗になった。 でも冷静な部分が生きていて、笑顔で受け入れてしまった。 …もう彼が、オレの手の届かないところに行ってしまったことを、分かってしまったから…。 最後に手切れ金のように大量のおこづかいを貰って、オレは彼に何も言わずに去った。 ―自室で自分の通帳を広げてみる。 かなりの大金だ。 もうおこづかいを親から貰う必要が無いくらいの金額。 …なのに心はちっとも浮かばない。 思うのは彼のことばかり。 でも冷静な自分がいて、もう彼がオレを必要としていないことを分かってしまっていた。 笑顔の彼から言われることは、学校のこと、友達のこと、ご両親のことばかり。 …思い起こせば、オレのことなんて一度も言っていない。 側にいるのが当たり前だったから、言わなかっただけかもしれないけど…。 最後に、聞けば良かった。 その答えが『弟』でも『親友』でも良い。 彼にオレ自身をどう思っていたのか、聞きたかった。 前へ |次へ |
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