《MUMEI》
漆黒の翼
.











これは現実だろうか…?


今、目の前で起きている光景が信じられず、加奈子は金縛りにあったかの様に身動き一つ出来ずにいる。


もう人一…



身動きしない者。



檻に入れられ、先程まで加奈子に命請いをしていた男…



もう叫ぶ声は聞こえない。
血走った目を有らん限り見開いて…



呼吸すらままならない感じで…

「たす……け…て……」

それでもまだ命請いをしている。



元々青白かった男の顔から更に血の気が引いていく。
目に見える程にそれは明らかで‥



多分、もう……




今ではジュルジュルという音だけがこの部屋に響く。




男の首筋に牙を立て、夢中で吸い付くリョウ。


リョウに全身の血液を吸い上げられ、ただ死を待つだけの男…


「やめて‥」


蚊のなく様な声しか出ない。


怖くて‥



悲しくて…




ジュル‥ジュル‥


リョウの口元から男の血が垂れる。



「ぃや…辞めて‥リョウ、辞めて!辞めてぇぇ!!」


加奈子の悲痛な叫び声がこだました。


「無駄ですよ‥彼は今自分を見失っている。これが終われば、また元のリョウ君に戻りますが……」


―――バサッ!‥―


「次期、再び自分を見失います。今度は永遠に…」





音と共に現れた‥



……いや、



“生えてきた”とでも言えばいいのだろうか?




リョウの背中からバサバサと



まるでコウモリの様な


それは大きな‥大きな、


どこまでも漆黒な




翼みたいなモノが生えていた。



「素晴らしい…」


溜息交じりの有馬の声と、パチパチと拍手する音が



遠くから聞こえてくるようだった。

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