《MUMEI》

「……そんなこと言うならお弁当あげないっ!」
それは困る。僕の体は燃費が悪いのだ。キチンと三食摂らねば倒れてしまう。
そう、壮司は僕の昼食の弁当をいつも作ってくれている。それはクラスの美少女のポジションではと思わないこともないが、とても助かっているので何も言わない。それに僕とは比べ物にならないくらい、壮司は料理上手だ。加えて家事全般大得意。何とも女の子らしさ溢れる野郎である。
取り敢えずこのままでは僕の昼食が無くなってしまう。壮司の機嫌を取る為、飴玉を差し出した。
「ま、まったく、めいってばそんなもので僕のご機嫌取ろうだなんて……」
などと言っている割には顔がかなり嬉しそうだ。僕は更に畳み掛ける。
「お前の好きなイチゴあ」
「わぁい、めい大好きー!」
じだぞ、と。
言い切らせて欲しかった。だがまあ、ご機嫌取りには成功したから気にしないことにする。
ちなみに、さっきからこのチビッコは僕を『めい』と呼ぶが、それは僕の本名ではない。
僕は黒鳥命。くろとりみことだ。一年の頃壮司が僕の名前を見て、
「……めい?」
と言って以来、僕は周りからめいと呼ばれ続けてきた。女のようで不愉快だったのだが、さすがに一年もたてば嫌でも慣れる。慣れてしまった。
飴玉を頬張ってご機嫌な壮司と共に歩き続けて十分も経つと、大きな建造物が見えてきた。その天辺には二対の翼が生えた巨大な十字架。
僕らの通う学校、聖ガティス大学付属高校だ。

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