《MUMEI》
回想
 樹海の奥深く、さえざえと透き通った泉。

 あの日、ジークはそこで、自分の運命を狂わせるもの――鍵の化け物――を見つけ、末梢するつもりだった。



 ジークは驚きのあまり目を瞠った。

 『鍵』がいるべき場所に横たわっていたのは、自分とそう年のかわらない、美しくも身なりの良い少女だったのだ。

 そんな、まさか。

 いや――心配ない。

 この辺りには恐ろしい怪物が出るという。

 いくら『鍵』といえども、このまま放っておけば、俺が手を下すまでもなく、死ぬだろう。

 なんせただの少女だ。

 そう―ただの、普通の、、無力で、自分のみを守るすべをもたない、少女なのだ。

「………………………」

 一瞬頭をよぎった考えを、かぶりを振って吹き飛ばす。

 ジークは少女に背を向けて歩き出そうとした。

「う――ん………」

 ジークは、少しの躊躇の後に掛け戻り、少女に声をかけた。

「おい!」

 軽く頬を叩き揺さ振ると、長い睫毛にふちどられた目がゆっくりと開いた。

 熱があるのか、かなり苦しそうだ。

「ありが…と…たし…ティ…アラ…」

 少女は苦しそうに顔を歪めながら、尚も懸命に言葉を継ぐ。

「……私…ごめ…なさ…、お父様…お母様……行かなきゃ……っ」

 それだけ呟やくと、少女は再び目を閉じた。

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