《MUMEI》 狂詩曲まだこの教会に人が訪れていた頃、オレはピアノ教室に通っていた。 そこそこの腕前で、コンクールに入賞したり、新聞や雑誌に小さくだが取り上げられたりしていた。 そのことをおもしろく思わなかった連中がいた。 それが今、床に倒れているヤツらだった。 コイツらは一緒になって、オレの指を…使い物にさせなくした。 教会には立派なグランドピアノがあって、時々使わせてもらっていた。 あの日、コイツらにピアノを弾いてくれと頼まれたオレは、素直に弾いて聞かせた。 コイツらがオレを囲むようにして、大人達が離れている隙に…蓋を思いっきり落とし、オレの指を潰した。 何本かの指は折れて、変形してしまった。 そして筋を痛め、今でも上手く動かせない。 コイツらは大人達に、ワザとじゃないと訴えた。 たまたま、偶然だったと―。 そして大人達はそれを信じてしまった。 本当はただのねたみから仕出かしたことなのに! ピアニストとしての将来を奪われたオレは、カメラの方に興味を向けた。 美しい演奏が出来なくなった代わりに、美しいものを撮ることに専念した。 けれどヤツらはずっとオレの近くにいた。 ピアノの腕を奪っても、カメラの腕を磨いたオレの側にいることで、優越感を感じていたんだ。 ねたみから、利用へ―。 いい加減うんざりしていたところで、彼と―シキと出会った。 あの事件から、教会はイヤなウワサが流れるようになった。 まあ子供が事故でも、ピアニストの将来を絶たれたという事件が起これば、誰も寄り付かなくなるだろう。 教会にいた人達はここを去り、無人になって数年経った。 オレは自分の心を確かめる為に、ここを1人で訪れた。 前へ |次へ |
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