《MUMEI》 だから、静かに殺してほしい そう懇願され、深沢が何を言って返すよりも先に 幻影が、動いた 蜘蛛の周りを穏やかに飛んで回り、そして彼女の唇へと触れる 羽根を幻影が動かす事を始めると、ソレから降る麟粉を蜘蛛が食んでいた 途端にその眼が見開き 叫ぶ声を上げながら喉を掻き毟り始める どれ位ソレが続いたのか 暫くの後に、漸く蜘蛛の身体が地に伏していた 「……今回は随分と優しいんだな。お前」 死を望んだ彼女へ、望んだ通りの死を与えた幻影へ 深沢が一方的な言葉を向ける 当然返答など無く、幻影は我関せずと、静かに飛ぶばかりだ 「望……」 その様を眺めていた深沢の服の裾がまた不意に引かれ 視線を下げてみれば、滝川の泣いた顔 その頬を伝っていく涙を、深沢の手が優しく掬う 「何泣いてんだ。テメェは」 困った風に笑い掛けてやれば、滝川は首を横へと振りながら 泣いてない、と虚勢を張って見せた それでもしゃくり上げてしまう肩は隠しきれずに 細く華奢なその身体を深沢は何を言う事もせず抱きしめてやった 雨が静かに降り続けるその中で 互いに互いを抱き、暫くその場から離れられずにいた 蝶に憑かれた者が辿る、別の末路 ソレを迎えてしまった哀れ過ぎる彼女達へ せめてその死が穏やかなもので合った様に、と 唯々願うしか、出来なかった…… 前へ |次へ |
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