《MUMEI》

試合が再開されても、
俺はまだ動揺が隠せないでいた。


いつの間にか俺の目は先輩を追いかけていて、
試合に集中出来ない。


世界一尊敬している人から受けた言葉。


“賢史には、俺のようになって欲しくないんだよ”


当時の俺にはあまりに残酷すぎた。


鋭利な刃物が突き刺さったかのような、
胸に鋭い痛みを感じた。


右手で自分の胸を抑えて、
倉木先輩を見つめた。


先輩は大量の汗を流しながら、
一心にボールを追っている。


ダメだ。


切り換えないと。


必死に首を左右に降って、
無駄なことを考えないようにする。


まずは試合に専念するんだ。


そう自分に言い聞かせて、
俺は走り出した。

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