《MUMEI》

夜明けで、街がまだ眠っている時に訪れた教会には、先客がいた。

それがシキ。

シキは深手を負っていた。

その時には例の傷口は痛々しく、血を大量に流していた。

床に倒れ込み、動かないシキを見て、オレは慌てて駆け寄った。

「だっ大丈夫? キミ、しっかりして!」

ケータイを取り出し、救急車を呼び出そうとしたら、

「…やめろ」

シキの手に、止められた。

その時見たシキの美しくも禍々しい両眼は、一瞬にして、オレの心を射抜いた。

「あっ…」

「誰もっ、呼ぶなっ…! 呼んだら、お前をっ殺す…!」

シキの手には、日本刀が握られていた。

「…じゃあ、どうすればいい?」

「あっ?」

オレは倒れているシキの頬に触れた。

強く睨み付けるシキを、真っ直ぐに見つめる。

「どうすれば、キミは回復するの?」

シキの口元が、笑みのカタチになる。

「…喰わせろ。人間を!」

「ふぅん。キミは人を喰らうんだ」

不思議と驚きは無かった。

「いいよ。好きなだけ食べさせてやるよ」

「お前…本気で言ってんのか?」

「もちろん。でも協力はしてほしい。エサを誘き寄せる為に、少し演出してほしいんだけど、良い?」

「…ああ、構わない」

「契約成立だ。…あっ、そうだ。キミ」

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