《MUMEI》

オレは顔を上げ、ピアノを見た。

ピアノは昔見た姿のまま、そこにあった。

「ピアノ、弾ける?」

彼は弾ける、と答えた。

だからオレへの報酬は、彼のピアノの演奏になった。

―その後。

まずは女性を1人、ここに誘って、シキに食い殺してもらった。

そしてデジカメを使って、映像を撮った。

そこでシキが教えてくれた。

シキは普通の人間じゃない。

とある血族の者で、力を使うことができるのだと―。

なら、それを使おうと言い出したのは、オレだった。

映像を編集し、シキに力を使ってもらった。

この映像を見た者は魅入られ、この場所を探さずにはいられなくする、ということを。

すぐには場所を特定できないように、ケータイ限定にもしてもらった。

もどかしい思いは、強い欲求へと変わるから。

そしてシキを追っている同属達に見つからないようにする為に、あえて小さな画面のケータイを選んだ。

狙いは良かった。好奇心からここから訪れた人間はたくさんいた。

おかげでシキには多くの者を食べさせてあげられた。

アングルを変えては動画を更新して、人の目を多く惹きつけた。

同じ場所だけど視点を変えるだけで、別の場所に見えるんだから、おもしろいもんだ。

サイトの訪問者数は二ヶ月で4ケタにものぼる。

でも…。

「逃げられるのなら、そろそろ逃げた方が良いかもね」

シキは死体を残さず食べる。

だから痕跡なんかは一切ないけど。

「二ヶ月も潜伏してたら、シキの同属に見つかる可能性が高いし」

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