《MUMEI》

「うん、中々美味しく出来たね」

「そうだね。あっ、ちょっと動かないで。口元拭くから」

「うん」

彼女は大人しく眼を閉じ、顔をこちらに向けてきた。

あたしはハンカチを持って、彼女の口元を…。

拭こうとして、改めて彼女の顔を見てしまった。

整った可愛い顔。

男共が黙っていられないほどの美少女。

そんな彼女が、無防備にもあたしに顔を向けている。

だから―。

思わず、キスしてしまった。

プリンの甘さが、濃くなった気がした。

「えっ…?」

驚いた顔で眼を開ける彼女。

そしてその眼に映る、同じように驚いた顔のあたし。

「ええっと…」

…ヤバイ。顔が歪んでいる。おかしな風に。

彼女の顔が、見る見る真っ赤に染まっていく。

―そして。

「っ!」

バチンッ!

「あいた…」

「…バカッ!」

彼女は自分のお弁当を掴んで、屋上から駆け下りて行った。

…当然か。

「ふぅ…」

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