《MUMEI》

しばらく眼を閉じていると、ふと、甘い匂いがした。

眼を開けると、彼女が側に立っていた。

「…どうしたの?」

出来るだけ素っ気無く声をかけた。

関係は終わっているんだ―そう思っていたのに。

「…ゼリー、作ってきたから」

ああ、そう言えばそんな約束、していたっけ。

「ありがと」

あたしはのっそり起き上がり、彼女の差し出してきた紙袋を受け取った。

「…食べよ」

そう言って彼女はあたしの隣に座った。

あたしは中身を取り出し、ゼリーカップとプラスチックのスプーンを彼女に渡した。

二人で黙々と食べる。

桃のすりおろしゼリーは甘過ぎず、さっぱりしていた。

「美味しい?」

「うん、美味しいよ」

けれど彼女は俯いて、あまり美味しそうには食べていない。

…こんな顔するぐらいなら、教室でみんなと食べればいいのに。

ああ、でもある意味、手切れ金みたいなもんか。

「…ご馳走様」

いつもなら心が満たされるはずの彼女の手作りのお菓子。

今日は何だか逆に虚しくなる。

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