《MUMEI》

「当然でしょう。折角あなたが(フェアリーテイル)を連れて来てくれたのに」
「別に来たくて来たんじゃない」
「でしょうね。でも、私の呼び出しに答えてくれた。嬉しいわ」
「勝手に言ってなよ。それで?以来成功の報酬、貰いたいんだけど」
「もうそんな話なの?基、アナタあの人の処に行ってから随分とせっかちになったわね」
「興味ないよ、そんな話。それより、さっさと出すもの出しなよ」
「……わかったわ。はい」
取りつく島もない本城へ
ヴァレッタは深々しい溜息をつくと財布を取り出した
その中から、数えもせず紙幣を取って出し、そして本城へ
「確かに受け取ったよ。じゃあね」
枚数を確認し、束ねたソレをヴァレッタへと振って見せながらその場を後に
しようとした本城の衣服の裾が唐突に掴まれる
「……基。何所、行くの?」
寂しげな顔で、掴んだ裾を離そうともしない相手へ
無表情を向けながら、本城はその手を解く
「僕の仕事は君を此処に連れてくるまでだ。後は、知らないよ」
素気なく言い放ち、踵を返した本城へヴァレッタからの声が
「あら基。この子、とても寂しそうにしてる。どう?もうマフィアなんかとはさっさと手を切って私の処へ――」
「戻らないよ」
ヴァレッタの声も最中に遮り
本城は戴いた札束を受け取った時同様に投げて返すと
徐に相手の手を取っていた
「も、基?」
「気が、変わった」
その細い身体を軽々肩へと抱え上げると
本城はヴァレッタへ向け、口元に悪役的嘲笑を浮かべてみせた
「基、何のつもり?」
「別に。唯、もう少しこの子で遊んでみたいと思っただけだ」
訝しげな表情のヴァレッタへ
それだけを言って返すと踵を返し外へと出て行く
人通りの多い表通りを相手を抱えたまま歩く本城
途中、何を思い出したのか不意に立ち止まった
「……そう言えば、君の名前、まだ聞いてないね」
「私の、名前?」
「そう。僕は名乗ったよ」
次は君の番だ、との本城へ
相手は納得したのか
「シャオ。シャオ・ウーフェイ」
相変わらずの小声で、漸く答えて返す
たどたどしく日本語を操る辺り、やはり日本人ではなかった様で
本城は僅かに肩を揺らすと、シャオの髪をまた手櫛で梳いていた
絡まることなく指を通す艶めかしい黒
何度も好いてやれば、徐に彼女の手が本城の髪へと伸びてくる
「何?」
「基の髪も、キレイ」
微かな笑みをシャオは浮かべ、何度も髪へ触れる
意図せず髪が乱されていくが
髪を触る彼女が余りに楽しげに見え、何の文句も言えずにいた
フッと、滅多に変わる事のない表情を緩ませた
次の瞬間
本城の背後で爆音が鳴り響く
すぐ後に吹きつけてくる温い突風に踵を返せば
木っ端に壊れた車体がそこにあった
「……僕の車、どうしてくれるわけ?」
黒煙立ち込める中
ソコに気配を感じた本城が懐から銃を取って出す
向けた先には人の影
躊躇する事もなく、本城はその影へと発砲していた
「目的は何?人の車馬鹿にする位だ。余程の用が僕にあったんだろう?」
煙立てる銃口を更に近く向けてやるため近く寄れば
漸く相手の顔を窺う事が出来た
「君……。そうか」
その相手の顔に見覚えがあったのか、本城は微かに笑ってみせる
だがその実、目は全く笑ってはおらず、銃口を相手へ
「……伝えておいてくれる?僕を捕まえようだなんて半端な事考えない方がいい。向かってくるつもりなら殺す気でおいでってね」
更に笑みを浮かべながらそう伝言すれば、相手は慄き逃げる様にその場から去って行った
無様なその様に溜息を吐けば
傍らからシャオの手が伸び、何事かを問うてやれば
「基、大丈夫?怪我、ない?」
心配気な顔が目の前で
その手をやんわりと取ってやり大丈夫を返してやった
「これ位、何ともないよ。それより、ご飯食べに行こうか」
腹が減ったとの本城へ
シャオは頷き、そして近くあった飲食店へ
「僕は何でもいいから。好きなの頼みなよ」
席へと着けば、シャオへとメニューを渡してやる本城
ソレを受け取ったシャオは様々あるメニューを隅々睨み付け
ある定食を指差した
「エビチリ、食べたい」
「じゃあ僕もそれで」
狭い店内
厨房にいた店主へ聞こえる様に言って向け
差して待つこともなくソレは出てきた

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