《MUMEI》
サイド
動揺したリアシッラは、挨拶もそこそこにポスターを引っつかみ、慌ただしく本社へ戻った。

そして今、ミンクと額を突き合わせている。

「珍しく慌てて何かと思えば。まぁ、よく撮れてますわ」
もはや子を見る目。

ポスターの中のウェルカ。

上半身裸でベッドの上。
オフホワイトのシーツに散る黒髪が、なんとも煽情的。さらに、臍の下ぎりぎりのチラリズム。
強調された左の目元には、三日月を散らしたようなメイク。無表情ながら、濃紺の瞳が淫靡に輝いていた。

こんなウェルカ知らない。

「売れそうですわね」

ミンクの感心したような呟きに、リアシッラは頷くことしかできなかった。

主が悶絶しているとも知らず、ウェルカは天宮と連れ立って帰路についていた。

「どこまで来るんだよ」

「家に帰ってもひとりだもの。送らせてよ」

そう言ってはいるが、リアシッラを一目見ようとしているのは明らかだった。ウェルカがこの街へやってきた理由を話したからだ。

面倒を起こす前に帰そうと思案しているうちに、本社ビルが見えた。

「いつ見ても立派な構えよね。従業員はどっから…」

入るのかと尋ねようとした天宮を、ウェルカが無言で制した。その視線の先には、壁を伝う一本のロープ。

見覚えのある侵入道具ではないが、明らかに清掃員の使う代物ではない。

心得た天宮が隣を窺うと、氷のように冷めた目が、燃えたぎるよう。

「どうするの?」

「後悔させてやる」

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