《MUMEI》
夜想曲
コウガとシキはマノンの影に包まれ、場所を移動した。

「ここは…」

「山の中、か?」

「そうだよ」

マノンの声に、2人は慌てて振り返った。

シキはマノンの顔を見て、警戒した。

「貴様っ、マノンか!」

刃を向けるシキに、マノンは笑顔を向ける。

「ヤダなー。命の恩人に、刃なんて向けないでよ? 大丈夫、ボクはキミ達を喰らうつもりは全然無いから」

「なら何故助けた?」

「強いて言うなら、姉さんへの嫌がらせ? 姉さん、いっつも澄ました顔してるからさ。たまには怒らせたくて」

楽しそうにクスクス笑うマノン。

「ああ、安心して良いよ。もう用は無いから、二人とも好きな所に行きなよ」

「信用できるか!」

「ん〜。でもボクとやり合っても、シキ、キミは勝てないデショ? お互い体力のムダになるだけだよ」


「しっシキ…」

シキは不安そうな顔をしているコウガを見て、渋々刃を下ろした。

「そうそう♪ このままどこにでも行きなよ。姉さんの力にならないんなら、ボクはキミ達を巻き込まずに済むし」

「…本当に俺達には関わらないんだな?」

「うん。と言うか、興味ないから。じゃあね」

ヒラヒラ手を振るマノンは、闇に溶けて消えた。

静寂が訪れた時、コウガはシキの腕を掴んだ。

「シキ、オレを連れてって!」

「何を言い出すんだ? お前はこのまま元の生活に…」

「ムリ。アイツら死んだし、オレが疑われる。それに…オレはここに思い残すことなんて無いんだ」

切なく語るコウガを、シキは無言で見た。

「だからシキと生きたい。邪魔になったら、シキが喰い殺してよ」

「…そうだな。非常食用に、連れて行くのも悪くはないな」

シキはコウガの手を掴んだ。

「オレと来い。コウガ」

「…うん! シキ。キミとならどこまでも」

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