《MUMEI》
先輩とのキス
「久し振りね!」

「…えっ?」

驚いて、言葉が出てこなかった。

目の前には、中学時代の先輩がいた。

「わたし、ここの高校だったのよ。知らなかった?」

「しっ知らなかった、です」

先輩は再会できたことに、素直に喜んでいた。

…あの日のことが、無かったように。

『あの日』。二年前の先輩の中学卒業式の日。

あたしの面倒を良くみてくれて、仲が良かった先輩。

―好きだった。本気で。

だから、別れ際。

…キス、をしてしまった。

先輩の許可も得ず。

キスしてすぐ逃げた。

それ以来、一度も会わなかったし、連絡も取り合わなかった。

なのに…入学した高校で偶然の再会。

すっ素直に喜べないっ…!

「今日が入学式だったのよね? 学校を案内するわ」

「えっ、えっ?」

先輩はあたしの手を取り、歩き出した。

確かに今日は入学式だった。

終わって親と別れ、少し学校内を回ろうと思っていたところに、先輩と出くわしてしまった。

…先輩にとって、あのキスは意味の無かったものなんだろうか?

……いや、意味を無くしたいキスだろうな。

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