《MUMEI》

「そんな悲しそうな顔しないでください。…先輩だってイヤでしょ? いきなりキスして逃げるような後輩を側に置いとくなんて」

「えっ…」

先輩の顔が真っ赤に染まった。

…相変わらず可愛い人だなぁ。

年上なのに、可愛い人。

よくスキンシップが好きで、抱き締められていた。

先輩の良い匂いと体の柔らかさに、自己嫌悪するほど感じてしまった昔。

けれど…近くにいたら、また同じことを繰り返してしまうかもしれない。

「だから、生徒会には入れません。悪いですけど別の人を誘ってください」

「でっでも…!」

「お互いの為、です」

そしてあたしは踵を返し、歩き出した。

「まっ待って!」

なのに…先輩は後ろから抱き着いてきた。

「せっ先輩?」

「…もう離れるのは、イヤなの…」

消え入りそうな声で、先輩は言った。

「ホントは…声をかけようか迷ったの。昔のことが、あるから。でも…」

ぎゅうっと抱き締められ、あたしは動けなくなった。

久し振りの先輩の匂いと体温に、一気に胸が高鳴る。

「見かけたらやっぱり…声かけてた。わたし、ヘンなのかなぁ?」

「…それを言うなら、あたしの方が変なんですよ。未だ先輩のこと、好きなんですから」

ゆっくりと振り返ると、先輩は涙目になっていた。

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