《MUMEI》

一人になり、途端に男口調に畑中は戻る
そして暫く薄暗くなってしまった外を眺め
徐に衣服をつい先刻脱いで捨てたソレへとまた着替え外へ
何処かへ行くのか、傘を差し歩きはじめていた
探してやらなければならない義理など何処にも無い
別に居なくとも関係ない筈のその存在を、畑中は無意識に探して回る
さして歩き回ることなく、その姿を見つける事が出来ていた
気付いたのは、物陰から聞こえてきた呼吸の音
ソレは穏やかな音などではなく、聞くに掠れている様で
明らかに普通でないと解るその様に向いて直れば
其処に小林の姿を見つけた
「……どうした?」浅い呼吸を小刻みに繰り返すばかりの小林
苦しげに胸元を掻いて乱すその様に
「……喘息、か」
その状態を理解し、畑中が小林の身を抱え上げていた
「……離、せ。触んな」
途切れ途切れに、それでも拒んでくる小林
だが畑中は聞く耳など持たず、そのまま帰路へ着く
「は、なせ、ってば!」
「道端で野垂れ死にたいか?」
脅す様に睨みつけてやれば小林は口籠り
漸く静かになったのを確認すると畑中は足早に自宅へ
帰るなり、戸棚から何かを取って出し
ソレを口に含んでいた
「何、だよ?それ……」
僅かばかり落ち着きはしたが未だ苦しげな小林
問われた事への返答だと言わんばかりに
畑中は更に水を口に含ませると、そのまま小林へと唇を重ねてやる
冷たいものと、何か小さな異物が入ってくる感触
突然のそれに驚き、すぐにでも振り払ってやりたいと
小林は首を振ってやろうと試みた
だがそれは叶わずに
小林は与えられたものをそのまま嚥下してしまう
「何、する……」
「すぐ、楽になる」
珍しく穏やかに低い声を呟いてやりながら床に座り込んだままの小林の身体をソファの上へ
横にしてやり、毛布を掛けてやりながら
「……兎に角、寝ろ。今日は泊めてやる」
あのまま放置で死なれては困る、と無意識に小林の髪を梳いてやっていた
暫くして薬が効いてきたのか、ゆっくりと穏やかな寝息が聞こえ始める
眠るときはまるで幼子の様な
その様を眺めながら畑中は
厄介なモノに手を出してしまった、と
深々しい溜息をついていた……

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