《MUMEI》 篭の中僕は文鳥を飼っていた。 篭を開けてやると空高く文鳥は飛んでいった。 「……やっとみつけた。」 僕の鳥さんはあの時の面影をはっきり残している。 「帰れ。心配してるだろ。」 声もあの時のままで、聞いているだけで泣きそうになる。 「もう社会人で、一人暮らしだよ、いつまでも子供じゃないんだ。」 いつ出所するのかも分からず文通だけのやり取り、居場所も教えてくれなかった、自力で探し続けてやっと会えた。 僕の唯一の支えだったのに、突然連絡が途絶えた。 思えばそれが彼の出所したという合図だったんだろう。 「……それでも心配してくれる家族が居るだろう。」 それは、鳥さんの家族でもあるじゃないか……。 「もう居ないよ、弱い人だったから……良くしてくれてるのは気遣ってくれているから、他人じゃなきゃ出来ない優しさだよ。」 母さんには自殺するだけの要素が十分あった。 周りは腫れ物扱いで、居心地の悪さは常について回った。 「ちゃんと食ってるか?」 俺が昔、拒食症になっていたことも知っていたようだ。 「食べるの、嫌いだけど大丈夫。果物とパンは好きなんだ。自炊もするよ。」 まだ、ご飯の臭いは嫌いだけれど……。 帰り道の、夕飯の臭いが気持ち悪かった。 「もういいだろ。」 「あの、傷が見たい。」 自分が刺した傷。 前へ |次へ |
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