《MUMEI》
双子
 ただ、走っていた。恐さに追い立てられ、振り返る事なんてできないまま、いつも、いまも、ただ走っていた。力を持たないのだから、しかたがない。そんな風に自分を客観視できるようになったのはつい最近の事。それまでは力の無い自分に苛立ちながら毎日を送っていたが、今ではそんな気持ちすらどこかへ消えてしまったみたいだ。

 前を走る兄の足も止まらない。兄と言っても、生まれた時間が僅かに違うだけの兄。しかし、頭や人としてのできは大分違う兄。自分なんかよりもずっとできている人なのだ。双子なのに、どうしてこんなにも差が出てしまったのか。

 両手に一つずつ抱えた紙袋が揺れる。中身なんて大して入っていないから軽い。カサカサと中身が擦れる音が届いてくる。鬱蒼と生い茂る森の中には自分達の走る足音と、その擦れる音、それから荒い息しか聞こえなかった。気が付けば、街からはもう大分離れてきたみたいだ。


「レオン、もう、いいな」
「うん」


 兄、というよりも、片割れのシオンもそれに気付いたようで、徐々に走るスピードをゆるめ、呼び掛けてきた。自分もそれに応えて頷く。止まってからしばらくはじっとして、上がってしまった息を整える事に集中した。シオンはづぐに普段の呼吸に戻るが、自分はどうしても時間がかかってしまう。
 呼吸を整える合間に、来た道を振り返る。いや。そこに道なんてものはなかった。ただ、たくさんの木が邪魔をするだけの視界。ここから見える木意外のものといえば、End ob tower、終焉の塔ぐらいのものだ。あの塔はこの島のどこに居たって目に入ってしまう。

 あの塔のせいで、世界は終焉へと向かっている。

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