《MUMEI》
終焉
 世界が終わる頃に生まれた自分達がなぜ生き続けているのか、わからない。人が生きる目標は幸福になるためだと言った人が居るらしいが、そんな哲学的な話など自分には関係ない。生きているから、生きるのだ。

 終焉の塔に住む三人の悪人、いや、悪魔が、なぜ世界を消そうとしているのか、自分はそれすら知らない。知ったところで何もかわらないのでから、知る必要も無いのだが。ロベルト、エリック、クリス。世界中どこを探しても、魔王と呼ばれた彼らの名前を知らない人などいないだろう。塔の外を全て敵に回しても堕ちる事の無い終焉の塔に篭り、世界を破滅へと導く者達の名前を。


「猫」


 シオンが発した言葉に前を向き直すと、そこには一匹の茶色い猫が居た。得に変哲のないような、どこにでもいそうな猫である。毛色は茶色く、真ん丸の瞳がかわいらしい。尻尾を垂直に立ててこちらに歩いて来たかと思うと、その猫はシオンの身体に身を擦り寄せてきた。人懐っこい猫である。きっと人から餌を貰った事があるのだろう。

 猫は続いて自分の方にも来てシオンにやったよう、身体を擦り寄せて来た。しゃがみ込み、右手に持っていた紙袋を地面へ置いてその頭を撫でてやると、気持ちよさそうに押し返してくる。


「連れて帰ったら、クズハは喜ぶかな」

「アイツなら絶対に喜ぶな。動物好きだし」


 遠回しではあるが、シオンに連れ帰る許可をもらい、自分は空いている右手で猫を抱き上げた。そして、さきほど地面に置いた紙袋を拾い上げようとして、戸惑う。手が足りない。どうにか二つの紙袋を片手で掴めないかと試みてみるが、どうもうまくいかない。


「不器用じゃん」


シオンはクスリと笑いながらそう言うと、自分の紙袋を置かずに、こちらの紙袋までひょいと持ち上げてしまった。


「ありがとう」


 また歩き始めた。荷物に猫を加えて、弟のクズハの待つ家へ。

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