《MUMEI》
三男
 今日はクズハの顔色が良い。猫のお陰で笑顔になっているからそう見えるだけなのだろうか。

 クズハは体が少しだけ弱い。そのせいで、この三人の中で一番先に居なくなるのは彼だろう。せめて彼の体を治療できるだけの環境が整っていたら、いや、満足な食事を与えてあげる事ができたのなら、そんな事もなかっただろう。自分とシオンに出来る事は、毎日どうにか食べ物を盗んで彼に与える事ぐらいだ。

 自分もシオンも、クズハの事を大切にしている。クズハと自分はシオンの事を大切にして、シオンとクズハも、変わらずに、思ってくれている事だろう。世界でただ三人だけ、自分達は血の繋がった兄弟なのだから当然の事だろう。

 ほとんどすべてのモノを失ってしまった自分達には、もうお互いの絆しか残されていない。次に何かを失ったら、残された方はもうどうしようもないだろう。残されて絶望に堕ちるくらいなら、いっそうの事、シオンとクズハえお消してしまい、二人だけは絶望する事のないようにしようかとも考えたが、それは単なる自分のエゴだった。


「じゃあ、寝ようか」


 食事が終わったら、やる事なんて何もないから寝るだけだ。無駄に体力を使ってはいけない。明日もまた食べ物を探しに行かなければならないのだから、体力を温存しなければ。それになにより、電気なんてもの、この廃墟のはないのだから暗くなってしまったらなにもできない。


「おやすみ」

「おやすみなさい」


 挨拶をして、みんな眠りについた。どうか、次に目を覚ました時に、誰もいなくなっていませんように。どうか、目を覚ませますように。

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