《MUMEI》

「逃げてもきりがないからな」
「捕まる気なのか?」
「いや。そんな気もさらさらない。俺はもう逃げないし、ずっと捕まらない」
「攻めていくということか」
ユウゴは織田に顔を向けた。
「そうだ」
織田はユウゴの顔をじっと見つめてから「そう上手くいけばいいがな」と呟くように言った。
「あ、あったぞ。カード」
後ろで嬉しそうなケンイチの声が響いた。
ユウゴたちは死体を積んだ車を置いて工事現場を出た。
しかし男が持っていたカードの店は近くにはなく、仕方なく三人は途中発見したサウナに入ることにした。
受付では三人の体に染み付いた臭いに嫌な顔をされたが、気づかれた様子はなかった。
今まで濡らしたタオルなどで体を拭くぐらいしかできなかったユウゴは久しぶりの湯舟に手足を伸ばす。
三人は嫌な臭いがしなくなるまで体を洗うと、翌日に備えて早々に眠りについた。

翌日、浅く続いていた眠りから覚めたユウゴは自然と周囲に異変がないか探っていた。
「大丈夫だ。とくに変わった様子はない」
ふいに声が聞こえ、振り返ると織田が立っていた。
ユウゴは頷きながらケンイチの姿を探す。
「あいつは?」
「まだ寝ている」
「そうか。じゃ、たたき起こしてさっさと行こう」
ユウゴの言葉に織田は無言で頷いた。

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