《MUMEI》

しばらくは何も話せなかった。

彼女は鼻歌を歌って、上機嫌。

だけどアタシは何だか居心地が悪くて、話し出した。

「雑誌見たよ! 可愛い服を着てたよね」

「そう? ありがと、嬉しい」

うっ…! モデルスマイルと分かっていても、彼女の笑顔はまぶしい。

「良いよね、ああいう服が似合うって。アタシなんていっつもボーイッシュ系ばっかり着てるから、うらやましくって」

「でも似合っているじゃない。可愛いわよ」

「あっありがとう」

えへへ、と笑う。

お世辞だと分かっていても、嬉しい。

「ねぇ、好きな人、いる?」

「えっ!」

思わず声が裏返ってしまった。

「いっいることはいるけど…」

目の前に。

彼女はいきなり立ち止まり、振り返った。

「―誰?」

「えっ?」

「好きな人」

なっ何か眼が怖い…。

顔は笑顔なんだけど、眼が笑っていない。

「ええっと…。そっそういうキミは?」

「わたしの好きな人は目の前にいるわ」

「………えっ?」

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