《MUMEI》
月光
 大きな湖に着いた。この森にこんな湖があったなんて知らなかった。猫は湖を眺めるように、その縁に立っている。その姿は気品が溢れているようだ。自分が近づいても、もう逃げないで大人しい。この猫は自分をここへと導きたかったのだろうか。いや、そんな事、ありえるのか。


「つかまえた」


 その茶色い体を抱き上げて湖を眺める。月が明るく、妖しく輝く夜に綺麗な湖。その波に満月の光が反射してキラキラと輝く。

 不意に、恐怖が体を駆け抜けた。帰り道がわからないとか、そういった恐怖ではない。もっと、見に危険を感じる恐怖だ。

 湖に反射する月の光り、その合間から何かが見えるのだ。黒い影。それも、大きな、とても大きな影。昔から大きな湖には未確認生物が潜むと言うが、本当にそう言った類なのかもしれない。

 立っているのが精一杯で、足が震えて、今にも座り込んでしまいそう。

 ゆらりと影が動いた。いや、動いたのではない。うごめいたのだ。こんな巨大な影では湖では動けない。

 影がゆっくりと大きくなり始めた。どうやら、水面へ上がって来ているみたいだ。ついに足が動かなくて座り込んでしまう。猫を離してしまったが、もう逃げない。しかしそんな事を気にしている暇はない。

 遂に、影が水面を破ってその体を見せる。水しぶきが上がり、キラキラと宝石を投げたみたいで綺麗だった。

 その影の正体は、信じられないものだった。

前へ |次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫