《MUMEI》

「基、これ可愛い」
どうやら気に入ったのか、モノ欲しげな顔を向けてくるシャオに
本城は僅かに肩を揺らすとシャオの手を引き、店の奥にある姿見の前へと立たせてやる
「……よく似合ってるね」
選んだ服をシャオへ宛がってやりながら
本城は姿身を眺め楽しげに笑む
耳元でその低音を呟かれ、顔を朱に染めるシャオ
その彼女の反応に本城は声を上げ笑いながら
自身の変装用の服を早々に選ぶと着替えていた
「代金、此処に置くよ」
金額より若干多めに代金を置いてやり店を後に
外へと出るなり、どうしてかシャオが楽しげにはしゃぎ始める
「あまりはしゃぐと転ぶよ」
弾むような足取りで前を歩くシャオへと言ってやれば
大丈夫だから、との返答
だが次の瞬間
藍を縺れさせ、転びかけてしまう
短い悲鳴を上げたシャオの身体を本城は咄嗟に支え
困った風な笑みを浮かべて向けた
「……言った傍から普通転ぼうとする?気をつけなよ」
「……ご、ごめんなさい」
「別に謝まらなくていいよ。ほら」
行って終りに差し出した手
その意図を瞬時に理解したのか
シャオは照れくさそうに頷くと、その手に自身の手を重ねていた
「さて、次は何所へ行こうか?」
まるで気楽な散歩でもしているかの様に
穏やかな歩調で歩き始めた本城
その眼前に突然、ヒトの影がいくつか現れる
「……探しましたよ。基さん」
聞き覚えのある声が鳴り、そちらを見据えれば
「……態々僕を探してこんな処まで?随分と暇だね、ボス」
黒服の群衆、その奥に
本城はその声の主を見つけた
「何故、ミス・ヴァレッタの依頼を反故にしたんですか?どうして……」
「変装も対して役に立たなかったね。詰まらない」
問われたことへの返答はせず
本城はどうしてか楽しげに笑いながらシャオの腕を引いた
「基さん!」
「ボス。悪いけどこの子は僕が貰うよ。取り戻そうと思うなら」
途中、態々言葉を区切り、徐に懐に潜ませていた銃を取って出す
相手へその銃口を突き付けてやりながら
「僕を殺してから、取り戻すんだね」
発砲していた
銃弾は相手の頬を僅か掠め、そのまま民家の窓ガラスを割って
しかし相手からは何の反応もなく、暫く無言で対峙した後
「解りました。基さん」
その一言で、その場を後に
大勢の黒集りが一気に消え跡形もなくなると、本城が深い溜息を吐き
「さっさと此処から離れるよ。シャオ」
シャオの手を取っていた
そのまま足早に街中を通り抜け
歩きながら、不意に穏やかに吹いてくる風に髪を撫でられた普段ならさして気にもしないソレに
本城はどうしてか苛立ちを覚えていた……

前へ |次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫