《MUMEI》
lesson1
 「で?結局の処私は何をすればいい訳?」
別邸にあるリビング
そこで井上は、これからの事について様々藤田に問う事をしていた
そもそも井上はこの家とは全く関わりのない人間な訳で
そんな自分がお嬢様としてい座ってもいいのかと
やはり不安、そして不信が先に立つ
「まずは、お嬢様らしく見える仕草、立ち振る舞いからだ」
「何それ。そんな所からやるの!?」
よもやそんな基礎から叩き込まれるとは思ってもなくつい声が大きくなる
だがそんな井上の抗議に耳を貸してもやらずに
藤田は当然だと言わんばかりに井上へとハイヒールを何故か投げて寄越してきた
「何よ。これ」
「見ればわかるだろ。ハイヒールだ」
「そんなの知ってるわよ。いい!?私が聞きたいのはこれで何をするかよ!」
目の前のダイニングテーブルに手の平を思い切り叩きつけ
更に詳しく、状況説明を井上は求めていた
「……いちいち面倒くさい」
「口答えしない!」
既に何を口論していたのかはすっかり消えて失せ
怒る一方の井上へ
兎に角落ち着け、と藤田は井上を窘める
「……お前、そんな一気に怒って疲れないか?」
「誰が怒らせてるのよ!」
「俺か?」
「そこで疑問符を付けない!どう考えたってアンタの所為なの!」
「……そりゃ悪かったな」
「思ってない!その言い方、絶対心から思ってない!」
「お前な……」
これでは話が一向に先に進まない、と
井上はその事で頬を膨らませ、藤田の方は溜息を一つ
だがすぐに藤田の方が先に折れたらしく
「……悪かった。謝ってやるから、そんな怒んな」
「何よ、その適当な言い方。アンタ、今は仮にも私の執事なんでしょ?」
「別にしたくてこんな事してる訳じゃねぇ」
「じゃ、なんで?」
首をかしげ問う事していた
「嫌なら辞めればいいのに。どして?」
更に詳しい返答を、答えて返すより先にまた問い質せば
藤田はさして興味もなさげに、何となくを返していた
何とも適当すぎるその返答に、井上は怪訝な表情をしてみせる
「……ま、私にはそこらへんは関係ないから別にいいけど。で?これ履いて歩けるようになれば取り敢えずいい訳?」
無い答えに井上は話を切り替え
ハイヒールを藤田の前へとチラつかせるとそれを履いて見せた
「すっごい不安定……」
履きなれていないハイヒールでは建っているのがやっとの状態で
一歩踏み出してみれば、やはりバランスを崩してしまう
「わっ……!」
転倒の際の痛みについ眼を閉じる井上
だが、その瞬間は待てども訪れる事はない
恐々目を開いて見れば
呆れた様な顔の藤田を見上げる様な形で抱きとめられていた
「……何やってんだか」
「仕方無いでしょ。こんなの、慣れてないんだから」
不手腐った様に顔を背ければ
藤田は深々溜息をつき、井上を取り合えず立たせてやる
未だ覚束ない脚取りの井上を暫く眺め
そしてその手を徐に藤田は取っていた
「な、何!?」
「出掛けるぞ」
「え?」
突然に手を引かれ、何所へ行くとも何も告げる事無く藤田は外へ
「ちょっ……。待ってよ!何所行くのよ!?」
「散歩だよ」
短く返し外へと更に進んでいく藤田へ井上はその袖を強くひき脚を止める
「何だ?」
「この靴歩きにくいんだけど」
出掛けるのならば履き返させてくれ、との訴えに
藤田は突然に脚を止め、そして井上へと向いて直りながら
「馬鹿か、テメェは。それを慣らすために散歩なんかに出掛けんだろうが」
「でも……!」
「つべこべ言うな。行くぞ」
「ちょっと……!」
有無を言わさず藤田は井上の手を引き外へ
大した目的もない様で
屋敷の周り近所を散歩と言う言葉通り唯歩く
「ちょっと、もう少しゆっくり……」
「下ばっかり気にしてると余計安定しなくなるぞ。前、向いてろ」
「そんなこと、簡単に言ってくれるけど――!」
「うるせぇな。だったらテメェは常日頃何履いてんだ?」
「靴よ、靴!スニーカー!」
「これだって靴だろ。さっさと慣れろ」
「行き成りそんな無理言わないでよ!あんた馬鹿じゃない!!」
段々と八当たりにも似た感情を井上は藤田へと向け始め
井上は一方的でしかない喚き合いに疲れ、漸く落着きを取り戻す
「……何かもう、アンタには何言っても無駄って気がしてきた」
「どういう意味だ?」

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