《MUMEI》

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―――小さい頃から、夏は嫌いだった。


本格的な夏を迎えると、朝早くから蝉達が競い合うように、喧しく鳴くようになる。

シャワーのように降り注ぐ蝉時雨に、天河 真尋(テンカワ マヒロ)はウンザリしながら、ゆっくりと空を見上げた。

彼の視界に飛び込んできたのは、

どこまでも広がる青い空。
清々しさすら感じる、美しいそのセルリアンブルーとは裏腹に、

絶え間なく続く、耳障りな蝉の声と、容赦なく浴びせられる、夏の太陽の熱に、つい眉をしかめた。

「…めんどくせー」

真尋は、ぽつんと呟き、それからため息をついた。

これから、この夏の日差しの中、ダラダラ最寄り駅まで歩いてすし詰め状態の満員電車に乗り、たった小一時間の終業式の為に、高校へ向かわなければならない。

全くバカバカしいこと、この上ない。

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