《MUMEI》 . ―――小さい頃から、夏は嫌いだった。 本格的な夏を迎えると、朝早くから蝉達が競い合うように、喧しく鳴くようになる。 シャワーのように降り注ぐ蝉時雨に、天河 真尋(テンカワ マヒロ)はウンザリしながら、ゆっくりと空を見上げた。 彼の視界に飛び込んできたのは、 どこまでも広がる青い空。 清々しさすら感じる、美しいそのセルリアンブルーとは裏腹に、 絶え間なく続く、耳障りな蝉の声と、容赦なく浴びせられる、夏の太陽の熱に、つい眉をしかめた。 「…めんどくせー」 真尋は、ぽつんと呟き、それからため息をついた。 これから、この夏の日差しの中、ダラダラ最寄り駅まで歩いてすし詰め状態の満員電車に乗り、たった小一時間の終業式の為に、高校へ向かわなければならない。 全くバカバカしいこと、この上ない。 前へ |次へ |
作品目次へ 感想掲示板へ 携帯小説検索(ランキング)へ 栞の一覧へ この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです! 新規作家登録する 無銘文庫 |