《MUMEI》
2
 「アンタも相当なおバカね。基」
煙草の煙が辺りに白く漂っていた
取り敢えず一時の寝床を、と様々探し回っていた本城達
その姿は、本城の知人が営む古着屋にあった
「そんなに、おかしいかい?畑中」
真面目な話をしているつもりも、何故か笑うばかりの相手・畑中へ
本城は気分を害したのか、懐へと手を忍ばせ銃へと触れる
撃鉄を微かに起こす音に、畑中は漸く笑いを潜ませていた
「ごめんなさい。アンタのその格好、似合いすぎてて。黒スーツなんかよりよっぽど似合うわよ」
「もしかしてソレ、褒めてるの?」
「そのつもりだけど」
そうは聞こえ無かったか、との畑中へ
だが本城は仏頂面のまま畑中を睨んで返す
直後、畑中の表情が不意に険しいソレへと変化していた
「……でも本城。アンタ、一体どういうつもり?組織に逆らってまでどうしてその子を?」
「それ、聞いてどうするの?」
「どうもしないわ。唯、アンタらしくないなって思っただけよ。で?どうして?」
更に問うてくる畑中へ
本城は徐に傍らのシャオの髪を掬いあげながら
「フェアリーテイル」
小声で一言呟いていた
畑中が驚いた様にシャオの方を見やる
「つくづく僕はコレに縁があるらしい」
「だからアンタ、その子を……?」
畑中からの問いに、だが本城は返す事はせず
何故かシャオの髪を結い始めた
長い黒髪を器用に結いあげ、おさげを作ってやる
「基、上手」
結いあがったソレを鏡で見、シャオは嬉しげな顔
本城も微かに笑みを浮かべ肩を揺らす
「……この僕に髪を結わせるなんて、君ぐらいだよ」
「基はシャオの髪、好き?」
唐突に問われ、瞬間髪を梳く本城の手が止まった
途端に空気が堅くなり
シャオに分からない程度に慌て始めた畑中が何かを言い掛けに口を開く
だが
「……そうだね。キミの髪なら、好きになれるかもしれない」
すぐに本城はまた笑んで見せた
その答えが意外だったのか
畑中が驚いたように本城へと向いて直れば
「何?畑中」
怪訝な表情を本城は返す
「……アンタ、変わったわね。」
「何の話?」
「あれだけ、(フェアリーテイル)を憎んでた奴が」
畑中の思わぬ言葉に
シャオは動揺し始めてしまった
「も、とい?」
不安げな顔を本城へと向けたシャオへ
畑中はソレが失言だと気付き
「ごめんね。アナタの事じゃないから、気にしないで」
「畑中」
シャオへと言葉を取り繕う事に懸命になっている畑中を
本城が唐突に呼ぶ事をする
何だを返してくる畑中へ
「茶か何か貰えない?喉渇いて仕方無いんだけど」
カウンターに置かれたままになっていた空のグラスを指で小突き、茶の催促だ
「……アンタ、遠慮とか謙虚って言葉知らない訳?」
余りの傍若無人振りに畑中が抗議の声を上げれば
だが当の本城はその程度の事など気に掛ける筈もなく
「それ位知ってるよ。けど、僕には関係ない」
堂々と言い切った
「……そうね。アンタにそんなもの求めた私が馬鹿だったわ」
余りに堂々としたその様に呆れた様な畑中
これ以上何を言った処で無駄と判断したのか
茶の用意をして来ると店の奥へと入っていった
二人きりになった室内
シャオが不意に本城の福の裾を握り締めながら
「……基。フェアリーテイルって、何?」
今更な問い
今更過ぎるソレに、本城は僅かに溜息をついて
「本当に君、何も聞かされてないんだね。……まぁ、仕方無いか」
「基?」
何か思わせぶりな本城にシャオが首を傾げれば
だが何を返す事も本城はせず、窓の外へと視線を向けた
「……つまらない」
眺めながら、さして代わり映えのしない外の景色に愚痴る様に呟いた、次の瞬間
店の戸がけたたましく開く音が鳴った
畑中の帰宅した音だけではない、と本城が身構えれば
慌てた様な畑中がそこへと飛び込んでくる
「畑中、何事?」
状況説明を求める本城へ
畑中は焦りに息を切らしながら
「基、逃げなさい!」
怒鳴りつけてきた
一体どうしたのか、本城は改めてその状況を問う
「アンタ達を探してるって奴が店の方に来てるの。だから早く、此処から逃げなさい!」
「そう。思ったより早く見つかったね」
嘲るような声を呟きながら

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