《MUMEI》
昔々あるところに
卒業後は美作の跡取りとして将来が決まっていて学校で学ぶことより家で学ぶことの方が遥かにあるので、授業は常に居眠り、ノートは女子から借りていた。
それでどうにかなるのだから、特に文句は言われない。
ただ、授業態度が悪いのでサークルに入らなければならなくなってしまった。

完全に浮いていた内館という男がそれを嗅ぎ付けて無理矢理連れていかれてしまう。

馴れ馴れしく初対面なのに肩なんか組んできた。



「内館、よく連れて来れたな……美作、悪かったな、帰っていいから。」

木下君は内館の餌食になっている男という認識しかなかった。


「せっかく連れてきてやったのに!」

この言い草、ついつい内館にいらついてしまう。


「君はぺこぺこあちこちに謝って歩いて内館の保護者かなにかなの?」

そして、木下君にもいらついていた。


「いや、保護者じゃあないよ。面白いだろ内館って、俺が居たいから内館と居るだけ。」

内館は当時から元ヤン総長だったことは知られていたし、性格や行動が奇抜で周りには厄介者扱いだった。


「へへへ……誉められたあ」

あの、手の付けられない内館が彼の一言でリードを付けられた犬のように大人しくなったことが新鮮である。


「君達、なんか気持ち悪いくらいべたべたしてて付き合ってるの?」

内館の異常な程のスキンシップにびくともしない、むしろ嬉しそうにも見えた。


「……いいや、付き合っていないね、人と触れ合ったりするのって恋人同士じゃなくてもあるんじゃないか?美作がどういう考えを持っても自由だけど、なんでも恋愛感情に結び付けるなんて思春期みたいだね。」

常に大人しく内館の話し相手だった彼の厭味返しは中々洗練されていて、この自尊心の塊であった頭を撫でてきた。


「実は内館しか友達いなかったりして。」


「お互い様だよね。」

ささやかな復讐も受け流された。


「えーと、名前が……」


「木下だよ、美作。」

失礼な返しをしても不快感を見せない。


「大きな栗の木下だよな。」

内館のせいで、暫く栗を意識してしまう。

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