《MUMEI》
痛み
「今宵ちゃ〜ん!!どこ行ってたんだよぅ!!」

「琴吹くん・・・・・・」

今宵が教室に足を踏み入れると、紘が駆け寄ってくる。

暑苦しい表情を浮かべて。

今宵は思わず目を逸らして答えた。

「ちょっと図書室に用があったから早めに来ただけだよ!!」

「今宵ちゃんは可愛いから誘拐されたんじゃないかって心配したんだよ〜〜〜!!!」

「うわあ!!!」

今宵はそのまま勢いあまった紘にひしっと抱きしめられた。

なんでこんなことに!!

思い切って張り倒してやろうかと悩んでいると、紘の頭がパコーンっといい音を立てて叩かれた。

その反動で紘の腕から今宵は解放される。

「た、助かったぁ・・・・・・」

「いってえ!!お前今何で叩いた!?」

「これだけど」

紘が頭を抑えながら喚くと、歩雪は平然と答えて片手に持っているノートを丸めた筒状のものを見せた。

「今宵ちゃんの無事を確かめてたんだから邪魔すんなよ!!」

「変態は確かめなくて良い」

「変態じゃねぇよ!!」

見事な掛け合いの後、紘はいじいじとし始めた。

うわぁ。

琴吹くん可哀想だけど、歩雪くんナイス!!

今宵が軽く失礼なことを考えていると、歩雪が口を開いた。

「こー。本当に用があったの?」

今宵は思わず息を飲む。

この目・・・・・・。

何でも見透かされてそうで怖い。

この目で見つめられてうまく嘘をつけるほど、今宵は腹が据わってはいなかった。

しかしなんとか心を持ち直し、笑顔をつくる。

「ホ、ホントだよ!!レポート書きに行ったの!!」

「そっか」

歩雪はあっさりと頷き、今宵の頭に大きな手をポンッとのせた。

そしてそのままクシャッと一撫ですると、自分の席に着いた。

歩雪くんの表情が見えなかった・・・・・・。

この動揺が歩雪くんに伝わってなければいいんだけど。

ここまで来て私の心は激しく揺れている。

どうしようも、ないね・・・・・・。

今宵は俯き、自分の胸を見た。

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