《MUMEI》

父親の雪尋は、大学で考古学の助教授として働いている。
雪尋が、朝から講義を受け持っている日は、こうして真尋と共に出掛けるのだった。

「今日はミーティングがあるから先にご飯済ませて。眠かったら、鍵かけて寝ていいからね」

のんびり言った雪尋に、真尋はプイッと顔を背けた。

「ガキ扱いすんな!幾つになったと思ってんだよ!」

雪尋は、しばしばこんなふうに、真尋のことを子供扱いすることがある。雪尋にとっては真尋はまだまだ子供であるし、真尋は真尋で、少しずつ自立心が芽生え初めているから、そんな父親が煩わしく思っているのだ。

真尋が幼い頃、母親を亡くしてからずっと、『父ひとり子ひとり』で生きてきたから、お互いに何となく親子の距離感が掴めないでいるのかもしれない。

雪尋は大人ぶる息子に苦笑しつつ、「それじゃ、行ってくるよ」と、やんわり告げた。

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