《MUMEI》

デスクの脇には古びたベッドがひっそりと置かれ――…。



其所には、死期が間近に迫った老人が一人……



静かな呼吸を繰り返しながら、頼りない目線を虚空に漂わせていた…。




老人「… ワ …… タ … リ …。」



ワタリ「はい…旦那様…。お呼びでしょうか…?」



老人が しゃ枯れた声で呼びかけると、壮年の執事が側に立ち控えた――…。



老人「…今日……来た……赤ん坊…の……名前だが……。」



ワタリ「はい…。お決まりでございますか?」



老人「…あ…ァ………。」



老人は静かに頷くと、かすれた声を搾り出すように告げる…。



老人「…あの子に……この名を…」



老人は震える腕を掲げると、指先で宙空にスペルをなぞった。




老人「… N a t e … R i v e r ……。」




そして、全てのアルファベットを書き終えると―――…




その腕は、地球の重力に負けて、静かに崩れ落ちた――…。




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