《MUMEI》

「そっ…んなことっ、無いもん!」

そう言っていきなりアタシにキスをしてきた。

―キス、されてしまった。

一瞬だけ触れたあたたかな感触。

「…とだぁ」

「えっ…?」

「何の味もしないね…」

泣きそうな彼女の顔を見るのははじめてだった。

だからそのままアタシの前から去って行っても、何も声をかけられなかった。

唇に触れてみた。

味はしなかったケド…彼女のぬくもりが、唇に残っていた。

だからアタシは走って彼女を追いかけた。

幸いにも彼女の足はそんなに速くない。

すぐに追い付いて、腕を掴んだ。

「待って!」

でも振り返った彼女は、泣いていた。

「何で…泣いてんのよ?」

泣きたいのはこっちだと言うのに…。

「ごめっ…ゴメンなさい…!」

ボロボロと泣き出す始末。

アタシは深く息を吐いて、彼女の涙をハンカチで拭った。

「まあ…味は無いけどさ」

「ふえっ…?」

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