《MUMEI》

その途端、わたしの体にかつて無いほどの戦慄が走り抜けた。

まるで電気を浴びたような衝撃で、わたしは息をすることを忘れてしまった。

そのせいか、その夜見た夢は、悪夢だった。

深夜、寝静まった街中を、一人のピエロが歌いながら歩いている。

―両手に鎌を持ちながら。

孤独なピエロは陽気に歌う。

しかし、サーカス団近くの川原に来た時、様子が一変した。

真っ白顔には、笑顔の化粧がされていた。

けれどその体からは、異様な殺気が出始めた。

何故なら、ピエロの目の前に、昼間見たサーカス団員達がいたからだ。

「今晩は、ピエロ」

団長が笑顔で話しかけた。

しかしピエロは構えて、団員達に切りかかった。

ところが流石はサーカス団。軽い身のこなしで、ピエロの攻撃を避けた。

まるでカマイタチのようなピエロの攻撃を避けても、そっちからは攻撃してこない。

だが、団長の手には小型のナイフが握られた。

ヒュッ!

ピエロよりも早い動きで、ナイフが動く。

するとピエロの腕から血が飛び出した。

ピエロの雰囲気が変わる。

「ちょっとお話があるんですが、聞いてくれませんかね? 私達はあなたを迎えに来たんですよ」

しかしピエロは姿勢を低くし、突如走り出した。

風を切るほどの素早い逃走に、サーカス団員も追いかけようとしたが…。

「お止めなさい。追い詰めたところで、何にもなりませんよ」

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