《MUMEI》

…痴漢だ。

真尋は確信した。
彼は少女のようにあどけない顔立ちの美少年として、近所や学校でも有名だった。

その容姿のせいで男女問わずクラスメイトから人気が有るし、私服で歩いていると、女の子と間違えられて、知らない男からナンパされることもよくあった。

もちろん、こうして電車内で痴漢に遭うことも、今日に限ったことではない。

ドキドキと心臓が高鳴り、身体中から嫌な汗が吹き出す。口の中はカラカラに乾いていた。

身動きのとれない車内で、真尋は視線だけを巡らせる。

すると、彼のすぐ背後に、サラリーマン風の中年男がピッタリと身体をくっつけていた。

サラリーマンは興奮しているのか、顔を少し赤らめ、呼吸も少し荒くなっている。
彼の手が確実に真尋の股間をまさぐっていることから、間違いなく真尋が男と判った上で痴漢行為に及んでいるのだ。

…こンの変態クソおやじがッ!

サラリーマンの痴漢行為に耐えながら、真尋は人知れず舌打ちした。

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