《MUMEI》

「俺が何したって言うんだよ!手を放せッ!?」

サラリーマンは女の手を振り払おうと必死にもがいた。しかし、電車が混み合っているからなのか、それとも女の握力が相当のものなのか、解放されることはなかった。

女はそんな彼を半眼で睨み、フン!と鼻を鳴らした。

「ナニしたも何も、こっちはバッチリ目撃したっつーのッ!!」

自信満々に言い放った女に怯み、サラリーマンは顔を強張らせる。
「な、何を見たって言うんだ!?」

裏返った声で言い返したサラリーマンをバカにするように、彼女は、「自分の胸に聞いてみればぁ?」と、肩を竦めてみせた。

突如として始まった言い争いに、周りの人々もいよいよ不審がった。
真尋達の様子を覗き込みながら、「なんだ?」と口々にどよめく声が聞こえてくる。

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