《MUMEI》

周りの乗客は、二人の言い争いを覗き込もうとしている。

「何?ケンカ?」

「チカンらしいよ〜!」

「ぅわ、サイテー!!」

ヒソヒソと声が流れてくる。真尋はあまりの恥ずかしさに、顔を真っ赤にして俯いた。

やがて、電車は駅に停車する為、ゆっくりとブレーキをかけ始めた。

ブレーキの負荷に身を任せながら、謎の女はサラリーマンの顔を、サングラス越しに睨み付ける。

「…次で降りるよ!鉄警につきだしてやる!!」

凄みのある声で唸り、それから真尋の顔を見て、「キミも一緒にね!」と付け足した。

…はっ!?

女の台詞に、真尋はたまげる。

「何で、俺まで!」

言い返そうとした彼に、女は眉をひそめて、「当然でしょ!」とのたまった。

「キミが被害者なんだから、コイツと一緒に行かなきゃダメじゃん!」

「俺、学校行く途中で…」

「そんなの、警察が連絡してくれるって。へーき、へーき」

呑気な声でそう言った女に、真尋はポカンとする。

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